「騎士団長殺し」村上春樹

村上春樹の小説には大きな特徴がある。

文章の記述は平易で詳細を極め、読者の興味を引き、目の前に映像を見せるがごとく微に入り細にわたる描写を行っていくが、全体を振り返るとその内容がぼやけ、今まで見せられていた映像が霧で覆われていく。

今回も主人公自身の身の回りに起きたことを中心に細かく細かく書き込んでいくが、それが返って全体を見にくくしている。この詳細と全体のずれが最大の魅力である。

しかし、小説を量産しすぎだろうか、年齢から来るのだろうか、井戸・こびと(のようなもの)など今までのモチーフがほとんど過去の作品で使われたものを流用しており、話の大枠を今までの西洋的なものから東洋的なものに変えただけとなっている。

さらに、伏線で回収していないものがあるので、1Q84の時のように第3部が出版される可能性が高いと個人的に思っている。

大いなるマンネリを見せながらも、ついついページが先に進んでしまう。それは平易な文章でときどきユーモアをぶっ込んでくる村上春樹の魅力なのである。

特に第2部の後半の異世界に入り込んでいるところを読んでいると、「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」を読みたくなってしまう。今までのモチーフを使っているのも過去の作品に目を向けようとしている作者の深謀遠慮なのかもしれない。

そう考えるとこの小説は本当に恐ろしい。