「夫の悪夢」藤原美子(文春文庫)

 最近エッセイを読むのにはまっている。

 気づくと読んでいる本の半分以上になってしまうほどである。文庫本だとよく巻末にその文庫の同じ分野の本が紹介されている。たまたま読んだエッセイの巻末の一覧にエッセイの一覧が掲載されていて、興味があるものを抜き出して片っ端から読んでいる。今回の「夫の悪夢」もその抜き出した一冊だった。

 興味を持ったのは、著者の夫である藤原正彦の「国家の品格」、「若き数学者のアメリカ」などを読んでいたからで、このような人の妻だったらさぞかし、毎日が大変なんだろうとぼんやり考えていたからである。さらにタイトルの「夫の悪夢」の悪夢のところで大変さを暗示しているように見えた。

 しかし、読んでみると予想外に夫婦仲、家族愛が文章からにじみ出ていて一気に読み切ってしまった。その読後感もなかなかのものだった。

 特に良かったのは毎年夏に家族全員で信州に行き夏休みを過ごしかたを述べた作品だった。都会から離れ、田舎で野菜を育てる、集中して仕事に取り組めるというところは著者が心の底から楽しんでいるところがその美しい文章の行間からにじみ出ていた。

 このような文章を今頃になって発見するとは自分も本読みとしてまだまだ甘いことを気付かされた一冊だった。