「デスマーチはなぜなくならないのか」宮地弘子(光文社新書)

1.IT業界におけるインタビュー本

 この本のちょっと変わったところはインタビュー形式を採用しているところだと思う。IT業界に関連する本も今まで読んできたが、だいたい著者本人の人生を振り返るか、新しい技術、ソフトを解説した本が多い。
 著者本人の人生を振り返るような本の場合は、著者が本を出版する段階では成功しているため、「人生の中でいろいろ問題があったけど今は成功しました」という紋切り型の流れになってしまう。
 この本では成功者を取り上げているわけではなく、現在進行形でもがいている人を取り上げており、この業界特有の仕事の難しさをうまく表現できている。

 

2.その人の人生に潜り込んでしまう

 3人のインタビューを中心にして、時々著者の考えや、ソフトウェア開発における理論を援用する形でインタビューの内容を補足している。
 普通のIT業界の問題点を列挙するような本を想像して読んでいたのだが、会話形式に引き込まれてしまった。会話形式だけれどさらに結構砕けた表現をそのまま載せていて、例えばインタビュアーの「うーん」とか「あー」とかそのまま載せてしまっている。通常であれば、このような表現は文字にしたりしないはずだが、文字にしてしまっている。しかし、このまま載っているのが、この本の独特さであり、引き込まれる要因なのかもしれない。
 この砕けた感じが読者を物語の中に引き込んでいく大きな要因だと思う。

 

3.デスマーチ

 同じ業界で働いているからかもしれないが、同じようなことを自分でも経験している。インタビューの中ででてきたAさんの「できないとはいわない」というのは確かに自分にも何度か経験しており、そのため、大変な状況に陥ることもあったが、なんとか他の人の手を借り時間をかけ、燃え尽きることもなく、これまで転職することもなく仕事を続けることができた。
 この業界特有の事情があるとも思っている。それは技術の進化がかなり激しいということ。OSもバージョンアップをつづけて、ミドルウェアもそれに併せてバージョンアップ、それに伴うソフトウェアもバージョンアップを続ける。そのような新しいものに継続的に適用していかなくてはいけない環境がデスマーチ化を誘発している。ほかの業界にもデスマーチ的なものがあるがIT業界にとりわけ多いのは、技術の進化が激しい面が大きいと思われる。

 

4.参考


 参考としてこれまでに読んだ本で似たものをあげる。
 ・「闘うプログラマー」G・パスカル・ザカリー
  WindowsNTの開発も一つのデスマーチ