「きみは赤ちゃん」川上未映子(文春文庫)

 「乳と卵」で芥川賞を受賞した著者の出産、子育てに奮闘する姿を描いたエッセイ。
 去年世界クッキーを読んだ後からエッセイつながりでこの本を読みたかったけど、なかなか手を出せずにおり、今回の文庫化を機に手に取ってみた。
 妻が出産・育児エッセイマンガを読んでいてそれを借りて読んで、「私たちは繁殖している(内田春菊)」、「ママはテンパリスト東村アキコ)」をよく読んでいた。
 とにかく子供を産むのは大変なのだけれど、初めての経験だと真剣にやってはいてもどうしても面白おかしい体験があり、またはっと考えされられる出来事がある。
 マンガだと面白おかしい部分が先行しているが、この本では母としての考えが前面に出ている部分があり、考えされる場面が多かった。
 特に「なんとか誕生」の最後でひとの存在から息子のことを考えている部分の下り、「人生は悲しくてつらいことのほうが多い」というのは印象深く残った。自分のこれまでの人生を考えても悲しくてつらいことの方が多く、なかなか楽しめる機会が無かった。仕事も悩みに悩んで答えを出してもそれがうまくいかないこともある。あまり深く考えずにやったことが後で大問題となったこともある。どれだけ長く働いても報われない。こつこつ積み重ねていくしか無い。
 自分の子供にも同じような思いをさせるのであれば本当は生まれてこなかった方が良かったのかもしれない。しかし、大変なことがあったとしても、生まれてこないことより生まれてきた方が良かったと思えるようになってもらいたい。自分の子供にもそのような考えを持っている。

 後半の髪の毛の話で、思い出した話があった。
 3~4歳くらいだった娘をお風呂に入って、髪の毛を洗っていたところ、書かれているような「うっすらとした墨汁が吸い込まれていく」経験をしたことがあった。これは娘が日中にハサミで髪の毛を切ったらしく、髪を洗った際に一気に抜けて手に髪がわっさり残った。普段驚いてもなかなか声に出すことは無いが、このときばかりは「あー!」って声を出してしまった。エッセイでは母の髪の毛の話だが、なぜか思い出してしまった。

 それにしてもやっぱり出産・育児の実録本は面白い。今後もいろいろな人の経験を読んでいきたいと心から思う。あと、この本の中で「乳と卵」に言及しており、良く謝罪をしていた。お詫びしながら、小説と現実の違いを説明し、もしかしたら巧妙な宣伝かもしれないけども、読みたくなってしまった。今度買ってみよう。