Aさんのお話

もう一年前になる。
父の死を前にして、叔父から連絡があった。父の友人に電話をしておいた方が良いとのこと。叔父も自分も思い当たる人が同じで、その人に連絡することになった。その人をAさんとする。
Aさんと父は自衛隊に所属していたときに出会ったようで、よっぽど気があったらしい。同じタイミングで自衛隊を辞め、その後タクシー会社に入社した。子供も同じくらいのタイミングででき、自分とAさんの子供は同じくらいの年齢だ。良く小さい頃にAさんの子供と遊んでいたらしい。
父はタクシー会社を辞め、職を転々としていたが、Aさんは定年まで勤め上げたようだった。
実家で年賀状を探し出し、電話番号を見つけ電話をかける。まず出たのはお婆さんらしき人、Aさんにかわってほしい旨伝えてもなかなか通じない。耳が遠いのとあまりAさんに替わりたく無いようだ。やっと納得してもらい、かわってもらった。
自分が小さい頃、父と同じ会社で働き、同じ社宅に住んでいたため何度も顔を合わしたことがある。
父が会社をやめた後は、社宅を引き払って転居したため、ずっと会っていなかった。会った記憶は無いが、顔も声もおぼえている。
電話をかわってもらい自分から話し始めた。懐かしい思い出話しをしてみたいと思ったが、まずは父の話。
父の病状、現在の状況の話しをしたが、反応が悪い。他人事のレベルの反応しか無い。うん、うん、それからくらいの相づちしか打ってくれない。昔話もしてみようと思ったが、この状況を理解できず、何を話して良いかもわからなくなり、事務的な話しかできないまま電話を切ってしまった。
あれは何だったんだろう。
確か、父が入院したばかりの頃にAさんに連絡に連絡すべきか話しをしたことがあった。父は首を振ったため、連絡はしなかったが、理由まで踏み込むことはできなかった。あのときに聞いておくべきだったのだろうか?父が亡くなった以上、真相はAさんしか知らない。しかし、Aさんに連絡までして聞くのも今となっては難しい。
世の中には知らないことを知らないままにしておくしかないことがある。今回はそのケースだったと言うことだ。
ちなみに、父の葬儀の時にAさんは香典を残していった。ちょっとでも会えれば話しをしたかった。