「酒肴奇譚」小泉武夫(中公文庫)

 この人の文章は独特な雰囲気を醸し出す。日経新聞で「食あれば楽あり」を連載しているが、食べた時の表現に擬態語をこれでもかというくらい使っている。不快感がある人もいそうだが自分はけっこう楽しくなってしまう。

 コラムだけでなく、一度本で読んで見たく手に取って見たのが今回の酒肴奇譚だった。

 この本では諸白醸児を名乗って酒にまつわる話を縦横無尽に語って行くスタイルになっている。自分は日常ほとんど酒を飲むことは無いけど酒の出来る仕組みが面白くついつい読み込んでしまった。日経新聞のコラムともまた違っており口上を述べる語り部調の文章となっている。

 日本における酒の歴史を発酵の歴史に絡めて語っていて映画「君の名は」にも出てきた口噛み酒も出てきた。本人も作って見たそうだけど口噛みさせるのは女子学生だというのがやっぱりなんとも言えなくなってしまう。あと、江戸時代の番船競争の話も面白かった。初ガツオを求める江戸っ子は何にでも旬を求めているのがよく分かる話だと思う。

 話は酒だけでは無く酒の肴にまで及んでいる。焼き魚、煮魚などはもちろん味付けに使う調味料にも話が及ぶ。調味料は煎り酒が登場。うちも少し前に使ったことがあるけどなんで今廃れてしまったのかわから無いくらい風味のある調味料だった。

 更には、日本の自然にまで及んでいる。確かに日本の風土が深みのある酒と肴を育んできた。ここまで深みのある蘊蓄話ができるのは大学教授だからこそ成せる技なのかも知れない。

 自分は酒が飲めないのに最近は酒情報を欲しているみたいだ。この後、手に取ったのは俵万智の「百人一酒」だし、千葉県立現代産業科学館に行って「千葉の発酵」展を見てしまった。酔っ払ってしまいそう。