「作家で十年いきのびる方法」鯨統一郎(光文社文庫)

 この前本屋をぶらぶらしていたときに、ふと出会って購入してしまった。この作家の本は今まで全く読んだことがなかったのだけれども、表紙に目が行き、つい引き込まれた。このような本に興味を持って、購入してしまうと言うことは、自分も作家で食べていきたいという欲求があるだと思う。

 

 この作家の本は初めてで読み進めて行くと前作があることが分かった。「努力しないで作家になる方法」と言う本だった。今回紹介した本の冒頭につながる作家としてデビューする前の頃を描いたものである。これも読んでみたくなってきた。

 

 保険の代理店をしながら小説家を目指しており、文学賞に応募し続けていたが、なかなか受賞に結びつかず、新人賞の最終選考に残ったことがきっかけで編集者に声をかけてもらいデビューに結びついた。デビューして浮かれていたが元上司の星野専務が忠告をしてくれる。「お前の武器は何だ?」と。すでに家庭を持っており妻と息子がいる。妻は優しく夫の目標に理解を示しており、強力にサポートしてくれる。元上司や家族のサポートを元に作家として10年生き延びていく。自分が望んでいた職業に就いた後にでてきた「継続して続けていくこと」の難しさや楽しさが10年分つづられている。

 

 特筆すべきところはこの本をよく読んでいるとそれぞれの執筆している小説に対して目的を明確にしていること。小説家というのは、プロットを決めることはあっても、あまり明確化せずに筆の流れるままに書いているのかと思ったら、あらかじめかなり明確な目的を決めてそれに沿って書いていくものもある。

 この本の中でもそれぞれの小説の目的とするところを書いているが、この本では「自伝的な小説を書きながら読者が小説の作法を学ぶことができる」と言うことを目的にしている。

 自分の作家になってからの出来事をそのときの小説の書き方、ポリシーとあわせて解説しながら筆を進めている。主人公が本を執筆するに当たって2つの目的をミックスして、うまくパッケージングすることを目標としているが、この小説についても同じように2つの目的をミックスしてうまく描き出している。さらには自分の武器を見つけて、更に磨いていくのか、他に武器を見つける必要があるのか考えている。

 自分でも将来に向けて文章を書いているが、もう少し目的を意識して書いていきたい。