「下級武士の米日記 桑名・柏崎の仕事暮らし」加藤淳子(平凡社新書)

「下級武士の米日記 桑名・柏崎の仕事暮らし」加藤淳子(平凡社新書

 NHKアーカイブスの「幕末転勤物語 ~一五〇年前の家族日記~」に触発されて読んだ本。
 NHKの方は、ドラマ仕立てで桑名から柏崎へ転勤した武士の生活に注目した内容となっていたが、こちらの本は桑名、柏崎のそれぞれの下級武士の仕事、病など多岐にわたり比較、解説を行っておりなかなか読み応えがあった。

 この本は、江戸時代に書かれた桑名日記、柏崎日記の内容を追ったものである。この日記は交換日記のようなもので、桑名日記は父側が書き上げた日記であり、柏崎日記はもともと桑名で一緒にいた息子が柏崎に転勤して書いたものである。桑名、柏崎のそれぞれの仕事、生活、家族に関する情報を交換しており、江戸時代を知る一級の資料である。

 

1.取り立てに関するせめぎ合い
 江戸時代は米中心に動いている。柏崎側の息子(勝之助)側は主に年貢の取り立てを行っている。年貢の取り立てにもいくつかもの手続きがあり、簡単にはいかない。藩としてはできるだけ収入を大きくしたいため、取り立て量を多く見積もる。しかし、米が不作となるときは村側が減免を希望してくる。
 村側が減免を訴えても藩としては簡単にそのまま願いを受けるわけにはいかない。まずは実測を行って、決めることになるが、藩としては減収につながることはあまり、急いで行いたくない。ここでせめぎ合いが発生する。
 この話は逆の展開もあり、豊作の時は実測して増収を図りたいが、村側はそれを拒否したこともある。江戸時代でもこのようなことがあり、間に挟まれている勝之助のため息が聞こえてきそうである。

 

2.江戸への出張
 柏崎から江戸の出張をしているが、たまたま水野忠邦失脚のタイミングと重なっており、忠邦の屋敷にまで見学に行っている。昔から野次馬はいたのだろうけど売り物まで出ているのはなかなか興味深かった。

 

3.お見舞米の運送
 勝之助は、地震被害が発生した松代藩に対してお見舞米を運搬する業務にも携わった。これは米の運搬をする業務だが、この時代だと米を運搬するだけも大事業になる。実際に運搬する前に事前に経路に関する調整、米の保管の調整などを行っていく。調整事項は大変だが、運搬の際に米の量が減ることを見越して、多めに運搬することまで調整していることには驚いた。
 

仕事とは作業を進めていくことも必要であるが、調整を行っていくことも重要であり、これが下級武士の仕事であることが興味深い。この本を読み進めていくと技術的な差は大きくあるが、現代の仕事(調整)とあまり違わないことにびっくりされられる。