「ニッポンの単身赴任」重松清(講談社文庫)

先日見た「幕末転勤物語」に出演していた重松清が単身赴任をしている20人の人生模様を描いたルポルタージュ重松清と言えばドラマの原作になっているイメージだったので、小説しか書いていないと思っていたらライターとしても結構書いているようだ。

幕末転勤物語の出演の際に単身赴任に関する本を出版していると紹介されていて気になったので、調べてみたら今回の本が出てきた。どうしても「転勤」だとか「単身赴任」というキーワードを見つけると気になってしまう。

いくつか気になった人を挙げてみたい。

 

①第四話「単身赴任エクスプレスの巻」

このお話の主人公は三菱自動車に勤務していたが、バストラック部門が分社化されて、その際にバストラック部門に移ったことになっている。昨年三菱自動車が日産の傘下になったが、どのように思っているのだろう。

 

②第六話「男女三人「島」物語の巻」

飯島夕雁の名前をどこかで見たことがあると思ったら、この単身赴任の後に(もしかしたら途中かもしれないけど)、郵政選挙で刺客として北海道の選挙区から衆議院議員に立候補した人だった。ついでにその後の情報も調べてみると、次の選挙で落選、その後は夕張市長選挙に立候補して落選していた。

この本が書かれたのは2002年前後でその当時青ヶ島だったが、仕事の経歴を見てみると場所を選ばないというか、1カ所にじっとしていられないように見えた。

 

それにしても北海道に関連する人が多いような気がする。本州内に住んでいて、転勤先も同じ本州内なのであれば家族帯同で転勤してしまうが、さすがに北海道までとなると単身赴任になることが多いのだろうか?そんなことを考えされられた。

また、他の人は2002年前後だとまだ珍しいホームページを開設したり、掲示板も開設している。ほかにも同じ単身赴任同士でBBQをしたり、旅行をしたりなかなか楽しんでいる人もいた。さらにはその単身赴任を支える妻、家族にフォーカスを当てたり、単身赴任者を支援(?)している飲み屋、さらには余計なお世話に見える不倫事情まで書き出していて、なかなかの読み応えだった。

海外への単身赴任も書いてあり、この頃一番の問題であったSARSの影響を受けてたまたま戻ってきた日本で足止めを食らったり、仕事にならなかったりで、そもそも海外への赴任、出張の難しさも知ることができる。

著者はほかにもサラリーマンに関する本を出しており、結構気になったので、引き続き読んでいきたいと思う。

 

「書いて稼ぐ技術」永江朗(平凡社新書)

 

1.フリーで生きていくことの誘惑

サラリーマン生活をしているとフリーの気楽さをうらやましく思ってしまう。
いやな上司に頭を下げなくても良いし、好きな仕事をしていれば良い。この本ではそんなフリーライターの仕事を垣間見ることができる。
特にフリーライターの魅力や仕事術などを中心に書いているがサラリーマンでも参考にしておくべきことがいくつもちりばめられている。

著者はフリーライターとして、長年仕事をしてきており、ルポルタージュやインタービュー本、ゴーストライターなどを行ってきており、今回の著書はフリーライターとしての今までのキャリアのまとめと、これまで携わってきた仕事を振り返っている。

 

2.書評の書き方


ブログなどで書評を書いている人にとってはこの「6ライターは読者の代行業である」が参考になる。著者は長年書評をしており、経験に基づいた書評術を身につけており、得た結論がタイトルにそのまま出ている。
タイトルの通り読者の代行として、その本がどんな本なのかを伝える方法を書評を例に具体的に書いてある。この内容に関しては実際に中身を自分で読んでみた方が良い。

 

3.世渡りの仕方

世渡りの仕方としてリスク管理とお金に関することに章を割いている。特にリスクに関する内容はサラリーマンでも参考になるものと思われる。特に「リスク分散術」という段落では一紙、一社に頼ることを危険だとしているが、これはサラリーマンでも同じことで、分散をなるべく図るべきだと自分は考えている。例えば、夫婦二人それぞれで仕事を持ち、どちらの会社がつぶれたとしても収入が入るようにする。
結婚というのは別の面もあり、それ自体がリスクになり得ることもあり、リスク回避にもなり得ることもあり、難しい判断が求められると思う。
それが難しい場合は収入保障をする保険があるので、保険に入ることも一つの選択肢である。

 

4.ゴーストライター


あまり詳細が語られることがないゴーストライターに関する情報も載っていてなかなか面白かった。本の出版までをプロジェクトと呼び、ゴーストライターへのインタビューや文章化、印税の分配まで詳細に説明している。


5.参考


 参考としてこの本と似た本を挙げる。
 「ラクをしないと成果は出ない」日垣隆(だいわ文庫)
 こちらはジャーナリストだが、リスク管理など共通の話題がいくつかある。

「デスマーチはなぜなくならないのか」宮地弘子(光文社新書)

1.IT業界におけるインタビュー本

 この本のちょっと変わったところはインタビュー形式を採用しているところだと思う。IT業界に関連する本も今まで読んできたが、だいたい著者本人の人生を振り返るか、新しい技術、ソフトを解説した本が多い。
 著者本人の人生を振り返るような本の場合は、著者が本を出版する段階では成功しているため、「人生の中でいろいろ問題があったけど今は成功しました」という紋切り型の流れになってしまう。
 この本では成功者を取り上げているわけではなく、現在進行形でもがいている人を取り上げており、この業界特有の仕事の難しさをうまく表現できている。

 

2.その人の人生に潜り込んでしまう

 3人のインタビューを中心にして、時々著者の考えや、ソフトウェア開発における理論を援用する形でインタビューの内容を補足している。
 普通のIT業界の問題点を列挙するような本を想像して読んでいたのだが、会話形式に引き込まれてしまった。会話形式だけれどさらに結構砕けた表現をそのまま載せていて、例えばインタビュアーの「うーん」とか「あー」とかそのまま載せてしまっている。通常であれば、このような表現は文字にしたりしないはずだが、文字にしてしまっている。しかし、このまま載っているのが、この本の独特さであり、引き込まれる要因なのかもしれない。
 この砕けた感じが読者を物語の中に引き込んでいく大きな要因だと思う。

 

3.デスマーチ

 同じ業界で働いているからかもしれないが、同じようなことを自分でも経験している。インタビューの中ででてきたAさんの「できないとはいわない」というのは確かに自分にも何度か経験しており、そのため、大変な状況に陥ることもあったが、なんとか他の人の手を借り時間をかけ、燃え尽きることもなく、これまで転職することもなく仕事を続けることができた。
 この業界特有の事情があるとも思っている。それは技術の進化がかなり激しいということ。OSもバージョンアップをつづけて、ミドルウェアもそれに併せてバージョンアップ、それに伴うソフトウェアもバージョンアップを続ける。そのような新しいものに継続的に適用していかなくてはいけない環境がデスマーチ化を誘発している。ほかの業界にもデスマーチ的なものがあるがIT業界にとりわけ多いのは、技術の進化が激しい面が大きいと思われる。

 

4.参考


 参考としてこれまでに読んだ本で似たものをあげる。
 ・「闘うプログラマー」G・パスカル・ザカリー
  WindowsNTの開発も一つのデスマーチ

 

「勝間式超ロジカル家事」勝間和代

我が家は結婚してからずっと共働きでやってきた。子育てに義父母の力を借りているとはいえ、自分たちである程度の家事はこなさなくてはいけない。そんなこともあり、家事の時短はずっと課題になっていた。

ルンバを購入して、毎日家の中をぐるぐるさせて、家を購入する際に食器洗い乾燥機をビルトインさせた。特に食洗機は1日に2~3回も回す日があり、無くてはならないものになっている。

今回取り上げる「勝間式超ロジカル家事」はそんな掃除や洗い物だけで無く、調理・洗濯・収納にまで踏み込んでいて、更に家計・ファッション・健康管理まで言及している。(正直なところ題名から行くと家計はほかの本で詳細に説明しているので、そちらを読んだ方が良いと思う。)

調理に関しては、ヘルシオを最大限活用した時短調理を紹介しており、更に扱いやすい野菜、肉、魚介類が説明付きで一覧表になっており、今後の料理の際に参考にしたいと思った。

洗濯については平干しネットを利用した乾かし方が紹介されており、今までのつるす方式よりかなり効率的に見える。しかし、子供が小さいうちは遊び道具になってしまう危険性が高いので、ある程度大きくなってからか子供が入り込まない場所に干すところがあれば問題と思われる。

家計管理に関しては「お金は銀行に預けるな」の方が詳しく言及しているので、そちらを読んだ方が良い。

このような本は、すぐさま役に立てなくても自分の頭の中に入れておき、今使っている家電が壊れたときや、家事のやり方を変えなくてはいけない場面が出てきたときのためにざっくり憶えておく、頭の引き出しに入れておくようなのインデックス的な使い方が良いと考えている。例えば、今現在ヘルシオのような蒸し機能がついていない電子レンジしか無いとしても今後新しく電子レンジを購入するタイミングで本を読み返して参考にするのが良い。そのためにもこの本は手元に置いておきたい。

 

蛇足:

細かいことだが表現の揺れが一カ所あった。P145の小見出しでは「平置きネット」とあったが、本文では「平干しネット」となっていた。

 

「幕末転勤物語 ~一五〇年前の家族日記~」(NHKスペシャル)

NHKスペシャル「幕末転勤物語 ~一五〇年前の家族日記~」を見る。

自分が転勤(単身赴任)をしていて、結構つらい思いをしている。ほかの家族がどのような思いで、転勤しているか見てみたかった。

古くは菅原道真から、どこの国でも、どの時代でも転勤というのは発生する。自分の会社生活も15年が過ぎているがこれまで大きな転勤は2回経験している。1回目は独身であったこともあるが、割とすんなり受け入れることができた。転勤してから結婚して、子供ができたがそれまでは良かった。その後家を建てるとそれまでのように行かなくなる。共働きで子供を隣の義父母に見てもらっているのであればなおさらである。いくつかの理由により去年からさみしい単身赴任生活が始まった。

今回見た幕末転勤物語は、柏崎日記、桑名日記をドラマ化したものである。この柏崎日記、桑名日記は江戸時代末期の話であり、桑名藩に仕えていた渡部平太夫、勝之助親子のうち勝之助が桑名藩から柏崎に転勤した際に親子で交わした交換日記である。この日記にはこの時代の柏崎、桑名のそれぞれの土地、風俗などを記してある第一級の史料になる。この日記を元にした本も数多く出版されている。

ドラマの合間には日記を記した渡部平太夫、勝之助の子孫が登場している。子孫もNTTにつとめているが、やはり転勤族のようでこの映像に出てきたタイミングでは異動願いを出していたが、異動がかなわなかった場面を映し出していた。年齢も今の自分と同じくらい。少しさみしそうだった。

それにしても江戸時代だから家族帯同で転勤しているのかと思ったら勝之助家族は長男を桑名に置いていった。ドラマ上ではあまり詳しく説明していなかったが、おそらく平太夫、勝之助親子の2家族が同時に出仕している関係で、平太夫側に何かあった場合に養子縁組できるようにして、2家族出仕の状態を続けたいからに見えた。

結局勝之助は妻と生まれたばかりの娘を連れて転勤先に向かっていった。離ればなれになった親子それぞれの悲しさを思うとつらくなった。

ドラマの中はあまり良い結果になっていなかったが、最後に現代の渡部さんが話題にあがった。ドラマに後に宮崎への転勤があったが、そのままその地に腰をおろしたそうだ。最後の最後でちょっと希望が持てて良かった。

「夫の悪夢」藤原美子(文春文庫)

 最近エッセイを読むのにはまっている。

 気づくと読んでいる本の半分以上になってしまうほどである。文庫本だとよく巻末にその文庫の同じ分野の本が紹介されている。たまたま読んだエッセイの巻末の一覧にエッセイの一覧が掲載されていて、興味があるものを抜き出して片っ端から読んでいる。今回の「夫の悪夢」もその抜き出した一冊だった。

 興味を持ったのは、著者の夫である藤原正彦の「国家の品格」、「若き数学者のアメリカ」などを読んでいたからで、このような人の妻だったらさぞかし、毎日が大変なんだろうとぼんやり考えていたからである。さらにタイトルの「夫の悪夢」の悪夢のところで大変さを暗示しているように見えた。

 しかし、読んでみると予想外に夫婦仲、家族愛が文章からにじみ出ていて一気に読み切ってしまった。その読後感もなかなかのものだった。

 特に良かったのは毎年夏に家族全員で信州に行き夏休みを過ごしかたを述べた作品だった。都会から離れ、田舎で野菜を育てる、集中して仕事に取り組めるというところは著者が心の底から楽しんでいるところがその美しい文章の行間からにじみ出ていた。

 このような文章を今頃になって発見するとは自分も本読みとしてまだまだ甘いことを気付かされた一冊だった。

 

「騎士団長殺し」村上春樹

村上春樹の小説には大きな特徴がある。

文章の記述は平易で詳細を極め、読者の興味を引き、目の前に映像を見せるがごとく微に入り細にわたる描写を行っていくが、全体を振り返るとその内容がぼやけ、今まで見せられていた映像が霧で覆われていく。

今回も主人公自身の身の回りに起きたことを中心に細かく細かく書き込んでいくが、それが返って全体を見にくくしている。この詳細と全体のずれが最大の魅力である。

しかし、小説を量産しすぎだろうか、年齢から来るのだろうか、井戸・こびと(のようなもの)など今までのモチーフがほとんど過去の作品で使われたものを流用しており、話の大枠を今までの西洋的なものから東洋的なものに変えただけとなっている。

さらに、伏線で回収していないものがあるので、1Q84の時のように第3部が出版される可能性が高いと個人的に思っている。

大いなるマンネリを見せながらも、ついついページが先に進んでしまう。それは平易な文章でときどきユーモアをぶっ込んでくる村上春樹の魅力なのである。

特に第2部の後半の異世界に入り込んでいるところを読んでいると、「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」を読みたくなってしまう。今までのモチーフを使っているのも過去の作品に目を向けようとしている作者の深謀遠慮なのかもしれない。

そう考えるとこの小説は本当に恐ろしい。