司馬遼太郎の小説は坂の上の雲、翔ぶが如く、花神など主要なものは読んできた。一時期盛んに言われていた司馬史観というのが自分の中でしっくりと来ていなかった。
小説と言うのはたとえ歴史小説であれ、創作物なのであって、学術的な意味合いは持っていない。面白さを優先しているので、正確性は二の次というのを知っているから、それを学者が「史観」という大きな流れとして捉えることに抵抗があった。
磯田さんはその史観を最初に説明することで、司馬遼太郎を真正面から論じているのは好感を持った。
そこから各作品を取り上げていくのだが、やはり避けて通れないのが、昭和である。
どうしても書けなかった昭和をナショナリズムとパトリオティズム、ドイツへの傾斜、そして統帥権をカギとして推理していく。この本の一番語りたかった部分のように見えた。
司馬遼太郎の読者であれば持つ史観、昭和に対して真正面から取り組んだ好著だった。